さいたま市にある単身者からファミリータイプをターゲットとした2階建て15戸の賃貸住宅である。
本計画は、ハコ形状をずらすという外観上きわめてシンプルな形態操作により、様々な立体化装置が合理的に絡み合うよう計画している。
配置計画にも並行に並んだハコのずれが、外部空間の立体化に寄与している。
1階は、隣地と道路ギリギリまでボリュームをよせ、中庭をつくり、2階はバルコニー、共用廊下としている。
2階建ての建物であるが、レベルの違うスラブを8つ設定し、大小様々な空間が折り重なるようにできている。
内部空間の天井高さは1.2m~4.2mまで、面積的には2.9畳~15.4畳までと大小様々である。
そして4タイプの住戸のなかで大小空間が、それぞれ独特のつながり方をしている。
集合住宅の場合、敷地や法規制によって計画手段が確立されてしまっている。
解決の手法は、事業性を優先すべきであるが、そこにシンプルなデザインコードを投入することだけで全く異なる建物が生み出され、新たな価値が生まれる。
DATA
| 所在地 | 埼玉県さいたま市 |
|---|---|
| 用途 | 共同住宅 |
| 設計期間・監理期間 | 2012.2-2014.3 |
| 敷地面積 | 549.55㎡ |
| 建築面積 | 356.08㎡ |
| 建蔽率 | 64.79% |
| 延床面積 | 565.17㎡ |
| 容積率 | 96.85% |
| 階数 | 地上2階 |
| 構造形式 | 鉄筋コンクリート造一部鉄骨造 |
本計画では、極めてシンプルな「ハコ形状をずらす」という操作を起点に、建築全体に多様な立体的仕掛けが有機的に絡み合う構成としている。
ほんのわずかなボリュームのずれでありながら、内部と外部の双方に複雑な陰影と奥行きをもたらし、
単純な形態操作を越えた豊かな空間体験へとつながっている。
ずらされたハコ同士が生み出す隙間や段差は、光の入り方や視線の抜けに変化を与え、建築全体に柔らかな動きを宿している。
また、周辺建物との調和を図るため、建物の高さは慎重にコントロールし、
2階建てにロフトを重ねた抑制の効いた構成としている。周囲のスケールを尊重しながらも、
内部には立体的な広がりを確保することで、コンパクトさと開放感を両立させ、
周辺環境に柔らかく溶け込みつつも個性を失わない建築を目指した。
置計画においても、並行に並んだハコを意図的にずらすことで、
周囲の環境と連続しながらも独自の奥行きをもつ外部空間が立体的に立ち上がるよう構成している。
1階では、ボリュームを隣地境界と道路際ぎりぎりまで寄せることで
、中庭側にできるだけ広い余白を確保した。
これにより、外部に対して開かれたゆったりとした住戸アプローチ空間が生まれ、
敷伸びやかな導入体験を実現している。
中庭側のハコがオーバーハングする部分は、そのまま玄関庇として機能し、
来訪者を包み込むような適度な陰影をつくり出している
。一方で、2階の外側へ向かってセットバックした部分は共用廊下やバルコニーとして活用され、
外部と内部の中間的な場として、日常的な滞在や視線の広がりを支える要素となっている。
その結果として、ハコ同士がずれることで生じた隙間や重なりが、
光・風・視線といった外部環境を多層的に受け止め、内部と外部の境界を柔らかく編み上げる。
単なる配置の工夫にとどまらず、建築全体に立体的なリズムと一体感をもたらしている。
100㎡という十分な広さを持つからこそ、空間同士の結びつきは単純には整理されず、むしろ多層的な関係をつくり出している。
大空間としてのスタジオを中心に、その周囲へ中間階のスタディースペースや吹き抜けを介したサンルーム、隣地の庭を見下ろす小さな物見の塔といった諸室が、わずかな“ずれ”を伴って配置されている。
このずれが、各室に固有の性格と視線の抜けを与え、空間に豊かな立体性を生む。
また、複数の開口や四角い覗き窓を設けることで、どの場所にいても他の気配がかすかに届き、住まい全体が緩やかに連続する構成としている。
用途と場所性が互いに響き合い、ひとつの大きな空間が多様な活動を許容する、そんな建築的なまとまりを目指している。