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SAGA project / koutouku 2024

  • 賃貸集合住宅
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清澄エリアに建つ本計画は、西側に隅田川が広がり、遠景には東京スカイツリーを望む恵まれた環境に位置する。川面を渡る風や、時間帯によって刻々と変化する光が、都市にありながら敷地に豊かな時間的奥行きを与えている。一方、東側には清澄庭園から続く街路樹が伸び、歩行者の環境を整えながら地域の回遊性を高め、季節の移ろいがまちの日常に静かな彩りを添えている。
こうした周辺環境に応答するため、建築は隅田川に向けて大きく開いたバルコニーを計画し、水景と呼応する眺望の豊かさとプライバシーの確保を両立させた。また、街路樹と響き合う植栽計画や落ち着いた素材・色彩構成により、建物が都市のランドスケープと滑らかに絡み合う関係性を生み出している。
都心では収益性から住戸が狭小化しがちだが、本計画ではその現実を肯定的に捉え、「住まいを着こなす」という視点を導入した。住戸は身体に寄り添うスケールに再構成され、可変性をもたせたプランやポケットのように細やかに散りばめた収納により、多様な暮らし方をしなやかに受け入れる。外部環境の豊かさと内部スケールの繊細さを重ね合わせ、都市における新たな住まい方を提示する集合住宅である。

DATA

所在地 東京都江東区
用途 集合住宅
設計期間・監理期間 2022 ‐ 2024
敷地面積 436.61㎡
建築面積 251.14㎡
建蔽率 57.52%
延床面積 1517.03㎡
容積率 299.91%
階数 地上9階
構造形式 鉄筋コンクリート造

水と緑が織りなす豊かな敷地環境

本計画地は、個性豊かな街並みが広がる清澄白河エリアの一角に位置する。東側には、都心では稀有なほどゆとりある清澄公園が広がり、江戸の時代から受け継がれてきた人工水路沿いの親水空間とつながることで、水と緑が緩やかに巡る豊かなネットワークを形成している。季節ごとに移ろう木々の表情や、水面に揺れる光の反射が、都市にありながら時間の奥行きを感じさせる。
一方、西側は隅田川に面し、川風や川面の煌めきとともに、東京スカイツリーや清洲橋のライトアップ、夏の花火大会といった多彩な眺望が日常の景色となる。都市の活気と自然の静けさが重なり合うこの環境に応答するように、建築は落ち着いた街並みと調和しながらも、周辺の景観に寄り添う端正な佇まいを目指した。

法規制を活かした形態デザイン

敷地にボリュームを立ち上げ、法規制に沿って外形を丁寧に整えたうえで、バルコニーや屋外廊下、階段といった機能要素を的確に配置している。本計画では、それらを建物の外側に付着する単なる付加物として扱うのではなく、外観の表情をつくる重要な構成要素として積極的に位置づけた。
東側では、屋外廊下と階段によって生まれる水平ラインがファサードに軽やかなリズムを与え、清澄白河に広がる端正で落ち着いた街並みの風景と呼応する。一方、西側は隅田川に向かってバルコニーを開き、その持つ水平性をマリオンにより繊細に分節することで、外観に奥行きと陰影をもたらしている。これにより、機能要素が景観のノイズとなることなく、むしろ建築の品格と落ち着きを高めるデザインとして統合されている。

集合住宅に必要な機能を表出・統合させたファサードデザイン

隅田川へひらき、風景と文化を纏う

都市の活気と水辺の静けさという、対照的な環境に挟まれた敷地条件に応えるため、すべての住戸を隅田川へと開き、バルコニーから周囲の景色と文化を存分に享受できる構成とした。遠景には東京スカイツリーがそびえ、夜には清洲橋のライトアップが川面に映り込み、夏には花火が夜空を彩る。四季や時間帯によって移ろう風景が住まいの日常に寄り添い、暮らしの背景に豊かな表情をもたらす。
一方、住戸の玄関は都市側に計画し、街の動きに触れながら住まいへと帰るプロセスを大切にした。ドアを開け、廊下を抜け、室内に一歩踏み込むと、都市の喧騒から隅田川の穏やかさへと心がゆるやかに切り替わる。そのわずかな“間”が、忙しい都心生活にふっと余白を生み、水辺の静けさを受け止める準備を整えてくれる。都市と自然が交差するこの場所だからこそ生まれる、豊かな住まいの体験を目指した。

隅田川へバルコニー向け景観軸を整えつつ、眺望を確保した

断面パース

都市の緑を取り込むエントランス

江東区では歩道沿いに緑道の整備が進み、街路樹が清澄エリアの落ち着いた街並みを豊かに彩っている。本計画ではその都市環境に積極的に呼応し、前面に植栽を計画することで、街全体のウォーカビリティを高める一端を担うエントランスとした。

誘引力を高めるために設けた庇とテーパー状の袖壁には、反射性をもつアルミカットパネルを採用。外部の緑や光が揺らぎながら反射し、都市の自然がそのままエントランスホールへと続いていくような視覚的なつながりをつくり出している。

突き当たりの壁には、緑と補色関係をなす赤色タイルを配し、空間の奥に強い印象を与えるアクセントを形成。外部の静かな緑道から内部の迎えの空間へと、明確な物語性を持って人を導くエントランスを目指した。

緑道を引き込むエントランスホール

住戸を纏うように生活する

隅田川に面したバルコニーには細やかにマリオンを挿入し、外部空間でありながら生活の延長として“自分だけの居場所”として使える半私的なスペースをつくり出した。水辺の光や風を感じながら、静かにコーヒーを飲んだり、本を開いたりと、屋内とは異なる時間の流れを楽しむことができる場所である。
住戸内部には、生活を包み込むように丁寧に設けられた「ポケットスペース」が点在し、収納やカウンターをしつらえることで、趣味や読書、軽作業など、その時々の気分に寄り添う多様な使い方が可能となった。また、空間をしなやかに変形させる「3連引戸」が、住まいに可変性とリズムを与え、生活の場面ごとに最適なスケールへと調整できる。
これらの工夫によって住戸全体が身体に寄り添う“衣服”のように機能し、住まう人が自らの暮らしを纏うように空間と関わることができる。小さな余白が積み重なり、日々の生活に奥行きと豊かさをもたらしている。

住戸内カラースキームの検討

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