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Embassy of Hungary

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内部に音楽ホールを抱えた大使館・領事館である。都市の喧噪から一歩隔てられたこの空間は、外交の場であると同時に、音楽を介して文化が交差する共鳴箱となる。可変音響パネルや遮音壁が精緻に配置され、柔らかな残響が言葉と旋律を包み込む。上部外装はダブルスキンとし、外気と室内環境の間に緩衝帯を設けることで、日射熱取得を制御しつつ冷暖房負荷を低減する。また、二重の膜は視線をやわらかく遮り、内部の活動を外部からそっと守るフィルターとして機能する。最上階にはひな壇状に段を重ねた庭園を配置し、植栽とテラスが空へ向かう階段のように連なっている。雨水は段ごとに集められ、灌水システムとして循環し、小さな生態系を育む。そこでは季節風が葉を揺らし、来訪者は空と街並みを見晴らしながら、静かな時間を分有することができる。夜になるとホールからこぼれる微かな光がダブルスキンの層を透過し、ファサードは譜面のようなリズムをまとって街路に浮かび上がる。その内側では、高効率空調や自動制御ルーバーが静かに作動し、快適性と省エネルギー性能のバランスを保つ。建築全体が外交、環境、芸術を結ぶひとつの楽器として、都市の中で静かに響き続ける。

DATA

所在地 東京都渋谷区
用途 事務所
設計期間・監理期間 2019
敷地面積 804.85㎡
建築面積 523.32㎡
建蔽率 64.50%
延床面積 2,792.01㎡
容積率 270.70%
階数 地下0階 地上5階
構造形式 RC造

デザインコンセプトは、ドナウ河畔に建つブダペストの国会議事堂に着想を得た、垂直に伸びるネオゴシックのシルエットを現代的に再構築することにある。繊細なリブやフィンが空へとリズミカルに伸び上がり、ファサードに光と影の縦のグラデーションをつくり出す。一方で低層部は、音楽ホールのエントランスのようにガラスと大きな庇で構成し、街に向かって開かれたロビーとして計画することで、外交施設でありながら市民が音や光を共有できる公共的な玄関口となる。

合理的な構造デザイン

本計画では、音楽ホールを内包する大空間を成立させるため、長スパン・短スパン方向ともに梁成600を基本としたフラットな架構計画とする。各階の梁成を抑えつつ必要な剛性とクリアランスを確保するため、上部構造からの吊り機構により床梁を支持し、その応力を外周柱へ効率的に伝達するシステムを採用する。架構形式は、スパン条件や荷重条件に応じてRC造とSRC造を適切に使い分けた混構造とし、耐震性能と施工性、コストのバランスを図りながら、スリムで端正な断面を実現することを目指す。これにより内部空間の天井高を最大限に確保しつつ、設備配管の納まりにも配慮した合理的な構造計画としている。