交通量の少ない生活道路に囲まれた低層住宅が建ち並ぶ落ち着いた街区に計画した地下1階・地上6階建ての共同住宅。敷地は三方道路に接し、その一面は都市計画道路として計画決定されている。接道部のレベルは最低点から最高点まで約4m程度の高低差を読み込み、主要道路側を地階レベルとして構成。地階の容積緩和を適用することで、周辺環境への圧迫感を抑えつつ最大限の床面積を確保した。周辺より一回り大きな建物となるため、北側住戸の日影影響を最小化する配置計画とし、高度斜線・日影規制に沿って上階を段階的にセットバック。斜線形状に寄り添いながら建物ボリュームを最大限積み上げた。上階を引くことで路面からの見上げの圧迫感も軽減し、街路に空の抜けをつくっている。三方道路それぞれに開口と壁量のバランスを調整し、歩行者スケールに合わせた基壇部と植栽で街並みに馴染ませ、都市計画道路側の街路景観にも配慮した。複雑な形状となった建物形状は化粧壁で適宜分節し、連続するバルコニーとガラス手摺の軽快さを重ね、陰影とリズムのある外観へと昇華した。素材感のあるダークトーンで統一し、端正な存在感を与えている。
DATA
| 所在地 | 東京都品川区 |
|---|---|
| 用途 | 共同住宅 |
| 設計期間・監理期間 | 2024.05-2024.12・2025.02-2026.08 |
| 敷地面積 | 754.55㎡ |
| 建築面積 | 515.21㎡ |
| 建蔽率 | 68.29%(70%) |
| 延床面積 | 2345.51㎡ |
| 容積率 | 228.80%(300%) |
| 階数 | 地下1階・地上6階 |
| 構造形式 | RC造 |
垂直のラインと素材感が織りなす普遍的デザイン
城南エリアでも屈指の人気を誇る不動前。駅徒歩圏でありながら閑静な住宅街という恵まれた立地において、周囲の低層建築と調和しつつも、街に新たなアイコニック性をもたらす「高感度なデザイン」を目指した。
外観は、素材感のあるダークトーンを基調とした重厚な色彩計画により、賃貸の枠を超えた分譲マンションを想起させる品格を創出。敷地形状に起因する複雑な建物ボリュームは、意匠的な「化粧壁」によって巧みに分節することで、視覚的な圧迫感を排除している。この強調された垂直ラインに対し、バルコニースラブの白い水平ラインを挿入することで、端正な構成の中に軽快なリズムとモダンな表情を与えた。
また、各住戸に設けたデザイン壁は、ファサードに奥行きと陰影をもたらすだけでなく、隣戸間の視線を制御しプライバシーを確保する機能も担う。マットな外壁素材とガラス手すりのコントラスト、またエッジの効いた造形が特別感を演出した。
都市計画道路により変貌しゆく街並みを見据え、時代に左右されない普遍的な美しさと機能を備えた、永住志向のレジデンスの提案。
「面」の重なりが描く陰影と彫刻的な奥行きを放つ西側ファサード
敷地西側のファサードは、化粧壁の縦ラインとバルコニーの水平ラインが印象的なメインファサードとは対照的に、「面」の重なりによる彫刻的なアプローチを試みた。
デザインの基調となる化粧壁は、板状の線材ではなく、厚みを持ったマッス(塊)としての「面」で構成。その端部を外壁ラインからあえて突出させることで、壁としての独立性と存在感を強調している。 一方で、長大になりがちな壁面に対しては、開口部に合わせてダークグレーの縦帯を挿入した。この色彩と素材の切り替えが視覚的な分節として機能し、巨大な壁面を引き締めつつ、単調になりがちな側面の表情に緊張感を与えている。
これら複数の化粧壁が前後に折り重なる構成は、建物に豊かなレイヤー感と物理的な奥行きを創出する。陽光の移ろいと共に変化する深い陰影が、見る角度によって異なる表情を見せ、都市景観の中に静かながらも力強い存在感を放つデザインとした。
高低差と法規制をデザインに昇華する
本計画は、厳しい日影規制と高度斜線制限、そして敷地内に存在する約4mという大きな高低差を、建築的な解決策へと昇華させたプロジェクトである。
敷地形状と法規制を多角的に解析し、建物の最適ボリュームを導き出した。主要道路側を地階レベルとして設定し、地階の容積緩和規定を最大限に活用することで、周辺環境への圧迫感を低減させつつ、事業性を高める床面積の確保を実現している。
建物上層部は、高度斜線や日影規制の制限ライン(限界)に沿うように段階的にセットバックさせた。この「斜線形状に寄り添う」デザインは、北側隣地への日影影響を最小限に抑えるだけでなく、路面からの見上げにおいて空へと抜ける視界をつくり出し、街並みに圧迫感を与えないための配慮でもある。
技術面では、3mを超える敷地高低差に対応するため、地盤面を細分化(3mごと)して設定し、高度斜線制限と日影規制を包括的かつ緻密にシミュレーションした。複雑な敷地条件と法規制をクリアなデザインへと落とし込み、最大限のボリューム確保と周辺環境との調和を両立させている。
静けさと住まう人を優しく包み込む迎賓空間
建築基準法上の地下1階に位置するエントランスアプローチは、都市の喧騒から隔絶された「隠れ家」のような静寂を纏っている。通りから奥まった配置特性を逆手に取り、デザインの主眼を人々を深奥へと「引き込む」空間演出に置いた。
空間構成の核となるのは、床・壁・天井に連続性を持たせた直線的なラインである。中でも天井に配したライン照明は、外部から内部に向かってあえて斜めに走らせることで、強力な視線誘導の役割を果たす。この動的な光のベクトルが、エントランスホールへと続くドラマティックなシークエンスを創出している。
床材にはテラゾータイルを採用し、石材由来の重厚で有機的な質感は建物全体のグレード感を底上げすると同時に、華美な装飾とは一線を画す「落ち着いた高級感」を演出する。この素材選定は、共用空間に不可欠な「品位」と、住まい手が帰宅時に感じるべき「安心感」を両立させるための提案である。光と素材が織りなす陰影が、都市の生活からプライベートな安らぎへとモードを切り替える、象徴的な結節点として機能する。