歴史ある中野区・鍋屋横丁に面した敷地に建設された、商業・クリニックモール・共同住宅からなるコンプレックスビル。商店街に新たな活気をもたらし、地域の「これから」を担う存在となることを目指した。
敷地にかかる厳しい日影規制により、素直に適用すれば建物は歪な形となり、街並みに調和しない姿になってしまう。そこで規制を丁寧に読み解き、必要最小限の操作を加えることでプロポーションを整え、合理性と美しさを兼ね備えたボリュームへと昇華させた。その過程で生まれた低層部の屋上は、条例上の空地であると同時に、低層テナントのための広場としても活用できる場となっている。セットバックさせた北側の建物形状は周辺の住宅街に対し十分配慮した。
高層部には形態を分節する”ヴァーティカルフィン”を設け、シンプルでありながら端正でシンボリックな外観を実現した。街に開かれた賑わいと居住空間の静けさを両立させてる。目地や素材、色検討等の細部にわたる設計配慮を施し、構造が持つ重量感を軽減し軽やかさと伸びやかさを表現した。
「この街にとって良いものをつくりたい」という施主の想いを出発点に、地域に親しまれ、利便性に優れ、利用者にとって誇りとなる建築を実現した。
DATA
| 所在地 | 東京都中野区 |
|---|---|
| 用途 | 集合住宅、物販店舗、クリニック |
| 設計期間・監理期間 | 2022 ‐ 2023 |
| 敷地面積 | 592.24㎡ |
| 建築面積 | 404.30㎡ |
| 建蔽率 | 92.60% |
| 延床面積 | 2183.88㎡ |
| 容積率 | 325.25% |
| 階数 | 地上10階 |
| 構造形式 | 鉄筋コンクリート造 |
法規制を美しく昇華した都市型ファサード
日影規制により上層部が大きく削られる敷地条件の中、その不整形なボリュームを弱点ではなく特徴へと転換するため、立面にはヴァーティカルフィンを配置し、縦方向の連続性で建物全体をまとめ上げた。これにより、規制形状を感じさせない端正で引き締まったファサードを実現するとともに、都市的なシャープさを強調している。高層住戸のバルコニーは白いスラブラインを際立たせ、水平のリズムを強調することで、空へ抜ける軽快な表情をつくりだした。低層の商業部にはハイサッシを採用し、歩道との視線を柔らかくつなぐ透明性の高い表情を形成。街並みと調和しながら、建物の存在感を自然に際立たせている。
街に開き、住まいに寄り添う“デュアルエントランス”
商業エントランスと集合住宅エントランスは、建物の用途の違いを明確に伝えるため、意図的に対照的な表情となるよう計画している。商業側は白いボリュームを基調とし、明るい照明とガラス面を組み合わせることで、街に向かって開かれた軽快な雰囲気を創出。さらに商業廊下には大きな開口を設け、内部の賑わいが街へ自然とあふれ出すような、アクティブなつながりをデザインした。一方、集合住宅側のエントランスは外部に対して“ひっそりとした構え”とし、内部に進むと温かな光と素材が迎える落ち着きある空間に切り替わる。住まう人に安心感と静けさを提供しつつ、街との適度な距離感を保つ構成としている。
空間ごとに個性を織り込み、用途の違いを豊かに表現した内部デザイン
建物内部は、用途ごとに異なる体験が生まれるよう、質感と素材を丁寧に切り替えながらデザインしている。メディカルモールの廊下には木質材をふんだんに用い、来訪者に安心感と温かさをもたらす、落ち着いた表情を持つ空間とした。一方、共同住宅の屋内廊下では、施主とともに検討し選定した各階異なるアクセントクロスを採用し、単調になりがちな共用部に階ごとのキャラクターを与えている。日々の暮らしの中で「自分の階に戻ってくる感覚」が自然に生まれる仕掛けとした。さらに集合住宅エントランスには左官調の塗装を用い、外観のシャープでスタイリッシュな印象から一歩奥へ進むと、人肌のような柔らかさを感じられる空間へ切り替わるよう意図した。素材の手触りが建物の印象に奥行きを与えている。